この記事では、先行研究の読み方について整理します。
主に阿部幸大『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』を参考にします。
参考書籍紹介
著者の阿部さんはアメリカで博士号を取得した人ですが、
この本はアメリカで一般的なやり方を直輸入するものではありません。
博士号を取得するまでの間に阿部さん自身が構築した方法論です。
日経の土曜の読書面で紹介されていて良さげだったので購入しました。
私の手元に来たのは、発刊から数か月後、第7刷。
研究や論文執筆の方法論についてはいくつか読んできましたが、これはすごい本だと思いました。
これから研究者を目指す人、
論文執筆で行き詰っている人、
論文執筆の速度を上げたい人、
といった方に断然おすすめ。
研究論文/書籍の読み方
最優先事項:アーギュメントの確定
最も大事なのは、「アーギュメントを発見すること」。
文章全体をスキャンして、その論文/書籍のアーギュメントを確定させるのが最優先。
アーギュメントを確定させたら読み始める。
各センテンスが果たしている役割を分析し、その著者のアーギュメントを確実に抽出する。
アブストラクトがない場合は、
イントロダクションを読む。
次に、コンクルージョンを読む。
イントロダクションの中でアーギュメントが置かれている可能性が高いのは、
1.最初
2.その次のパラグラフ
3.イントロダクションの最後のパラグラフがシノプシス(あらすじ)である場合、その直前のパラグラフ
日本ではアーギュメントのない論文も多いが、アーギュメントにもっとも接近している箇所を突き止め、それをアーギュメントと見なす。
アーギュメント専用の色を用意して、アーギュメントをハイライト。
アーギュメントを見つけたら、自分の言葉でパラフレーズして書き直す。
研究者にとって枢要な能力育成の極めて効果的なトレーニングらしい。
どういう論文だったか、という問いに一文で答えを出せるようになる。
自分の論文に、先行研究を有機的に組み込むことができるようになる。
先行研究を自分の議論に組み込む上では、本文を通読する必要はない。
論文は先行研究のアーギュメントを正確に把握した上で、自分の新しいアーギュメントによってアカデミックな会話を先へ進めること。
書籍の場合はまず、アブストラクトとイントロダクションからアーギュメントを抽出する。
イントロダクションの見るべき順番は、
- 冒頭の数段落
- 第一セクションの最後
第一セクションで議論の本題に入らない場合 - 第二セクションの最初
- 各章のシノプシス
書籍の場合、各章/チャプターに1つずつ、ハイライトすべきアーギュメントがある。
イントロダクションの末尾はたいてい、各章の議論をまとめた書籍全体のシノプシスになっている。
裏表紙(英語の書籍の場合)とイントロダクションから書籍全体のアーギュメントを抽出したら、次にイントロダクションの末尾を読んで、各章のアーギュメントをハイライトする。
ハイライターで情報を色分け。
一瞬でわかるように色でわけておくと、一度読んだ本を自分のものにすることができ、研究の効率が大幅に上がる。
私の場合は以下で色分けすることにしました。
- ピンク:アーギュメント、ぜひ引用する
- 水色:個人的に興味があり、引用する可能性がある
- 緑:重要なデータ、ファクト、情報。一次資料にあたって引用。
- 黄色:軽く重要だと思った箇所、引用してもよい
- アンダーライン:疑問点=わからないところ、怪しいところ
終わりに
阿部幸大さんがその著書で言うには・・
研究が進んでくると、把握しておかなければならない研究所は4桁にのぼる。そのすべての内容を暗記しておくことなど、あたりまえだが不可能だ。そこで必要なのは、各書物をアーギュメントへと圧縮し、各研究がどのように互いにつながっているのか、そのネットワークを脳内に構築することである。
先行研究の処理は、最終的にこのマッピング能力にかかっている。
阿部幸大『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』
だそうです。
最近、自分の脳力が衰え、能力が著しく低下していることをとみに感じるのですが。
私は脳内に研究のネットワークを構築できるのだろうか・・。